史上最大のピンチです。










 足元にしゃがんだまま忍足が、包帯から唇を離してにやりとあたしを意地悪く見つめる。
 まるで執事が靴を履かせる時のように、ひざまずいてむき出しの足をうやうやしくそっと持ち上げる。
 下手に外見が整っているだけに、なんとも絵になるその光景に、くらくらと眩暈にも似た羞恥心が湧き上がる。





「どうしたん?顔、赤いで?」
「あ、ああああアンタこそ何してんの!?」
「舌めっちゃかんでるやん」






 クツクツと人の悪い笑いを続ける忍足の指が、つうっ、とかかとから足先をすべるようになでる。
 かかとから足の指、そして甲へと、さわさわと触れるか触れないかくらいのもどかしい感じ。






「……ふ……っ」






 思わず漏れてしまった吐息のような声に、慌てて手の甲で口元を隠す。
 ク、と喉の奥で低い笑いを漏らした忍足と、あたしの目がバッチリと合う。
 一瞬でも気持ちいいと思ったことを見透かされてしまいそうで、反射的に顔を勢いよく背ける。
 途端、ぺろり、と生暖かい感触を足の指に感じて、慌てて背けた顔を元に戻す。






「…っ、あ、アンタ何やって…!!っんっ!」






 スカートから伸びているあたしの足の先、白い指を忍足の赤い舌がぺろぺろと舐めている。
 生暖くて柔らかい奇妙な感触が、足先から背筋にもの凄い速さで快感に変わって昇ってくる。
 全身の毛が逆立って、二の腕に薄く鳥肌が立つ。







 恐ろしいほど、いやらしい光景。





 

「あ、ちょ…っ、おした、り!」





 力の入らない脚を無理矢理ばたつかせて必死で抵抗するが、意思に反して出る声は全て甘いものばかりで。
 いやだ、と薄く涙を浮かべて首を振れば、ぴちゃ、と音を立てて赤い舌が指から離れていく。
 ほっ、と安心して息をついたのも束の間、開いた脚の間に柔らかな忍足の髪が触れて。
 太腿を撫でたその髪の感触に、一旦引いた鳥肌が、また表れてくる。





「…っ、やだ何…っ!」







 両脚の間、忍足の顔があって。
 敏感な太腿の内側をれろりと赤い舌が舐める。












「ひぁ…っ!」










 思わずのけぞりそうになったあたしを逃がさない、というように、腰をがっしりと押さえ込んで忍足は執拗に太腿を舐め続ける。
 初めは太腿の中ほどを舐めていたそれが、少しずつ脚の付け根にのぼってきて。
 スカートの裾を捲り上げて、下着のふち、腿の付け根まで一気に舐め取る。








「やあっ、ダメ………」







 徐々に強くなる快感に、危険信号が頭の中で点滅を始める。









 これ以上はだめ。










 これ以上進んだら、もう戻れない。






 両脚の間にある忍足の顔。
 視線が合うのが怖くて目をつぶれば、たまった涙が一筋瞳からこぼれた。












「…………『ダメ』?」










 先ほど言ったあたしの言葉を、確認するように忍足が甘く問いかける。
 だめ、と繰り返そうした瞬間、再びれろっ、と下着のふちを舐め取られて高い嬌声があがる。










「ひ…っああっ!」
「………なあ、。あかん?」
「や…っ。だ、め…っ」
「ほんまに?」
「あっ!」










 ついに下着越しに舐められ、これまでと違った感覚が全身を襲う。
 ぴりぴりと電気のようにしびれた快感に、抵抗の意思が薄れていくのを感じる。








 こんな、とこで、ダメだって、わかってるのに。












「めっちゃ濡れてんで?」
「いや…だ…」
「ほんまはイヤやないんやろ?」
「やぁ…っ」










 羞恥と快感で新たに涙が溢れ出す。
 嫌がるあたしをなだめるように、忍足は下着越しのそこを舐め続ける。
 びくびくと反応してしまう自分自身がひどくいやらしく感じると同時に、もっともっと強い快感を求める自分もそこにいた。









「あ、あ…っあ、ああっ」
「腰、浮かし?」
「…ふ……っ」










 言われるがまま浮かした腰の下、手早く下着を下ろされる。
 下着越しのときよりも、直に何倍も強く感じる忍足の舌。
 柔らかくて、暖かくて、気持ちいい。


「うあ…っ、あああっ、ああっ」










 学校なのに。
 保健室なのに。
 誰かが入ってくるかもしれないのに。












 いけない事だと分かっているから余計に感じてしまう。 










「ひ、あっ………!」









 ぴちゃ、とひときわ強くなめあげられ、室内に自分のあげる声と水音が反響する。
 自分がどれだけ感じてるのかを無理矢理聞かされているみたいで、気がおかしくなりそうだ。
 耳から侵されているような気にすらなる。
 










「おしたり…っ、おした、り……っ」
「…ん…」
「あ、あああ、あーっ」


 ゆるゆると、体の奥から何かがあがってくるような感覚に、絶頂が近い事を知る。
 少しだけ大きくなったあたしの声を感じ取ったのか、忍足は執拗にクリトリスを舐め続ける。




 もう、どうなってもいい。



 両脚の間にある忍足の頭を、きつく抱え込む。
 足の指先から、びりびりとした快感がざわりと昇ってくる。



















 イク。



















「―っあ、うああ、あああーっ!!!!!」










 保健室どころか廊下にまで響きそうな声があがる。
 頭の片隅に残っていた理性が、誰かに聞こえてしまう、と  するけれど、正直な体は快感には逆らえず。
 喉が痛いくらい叫んだ後、肺に戻ってきた酸素に荒い呼吸を開始する。
 はあはあ、と肩で息をすると、じわりと薄い涙が浮く。
 ぼやけた視界にはぺろりと自身の唇を舐める忍足の姿。











「エロい…………」



















 今更ながら声を潜めて呟いたあたしに、「エロいのはお前やろ」と平然と忍足が答える。










「いやいやいやいや、アンタは存在自体がエロいから。存在だけで性犯罪だから」
「よう言うわ。あれだけでかい声あげといて」
「あげさせたのは忍足でしょー!!?」






 今しがたまで交わされた行為などなかったかの様に、ぎゃあぎゃあといつも通りの会話を始めたあたしたちの耳に、ガラリとドアの開く音が響く。




「―いい加減終わったなら出て来い!保健室はラブホじゃねぇぞ!!」
「っぎゃーっ、跡部ー!!!!」
「なんや聞いてたんかいな」





 慌てて床に落ちた下着を拾うあたしと正反対に平然と忍足が返事をする。
 ちっとも悪びれた様子のないその態度に、ひくひくと跡部が青筋を立ててこめかみをひくつかせる。





「遅いから様子見に来てやりゃぁ……………。来たのが教師だったらどうする気だったんだ!?部活停止もんだぞ!」
「なんや、外でずっと聞いてたんかいな。やらしいな〜、跡部は」
「他のヤツが来ねぇか見張ってやってたんだ!お前はレギュラーの自覚があるのか!?」


 珍しくまともな説教をする跡部に、さすがにちょっと反省しかけた瞬間、
 
「いいか、今度からはやるならせめて部室にしろ!くれぐれも教師達にばれるんじゃねえぞ!」








 と、堂々と言い切って跡部が去って行く。




「……………………やっぱテニスって頭おかしいヤツしかいないわ………………」
「え、それって俺も入ってるん?」
「アンタが一番おかしいのよ!」






 再び始まった色気のない言い合いに。



 跡部が二度目の雷を落とすのは、5分先の事。