分厚いドア越しに聞こえてきた、「げっ」という色気のない声とガシャンという音に、日吉若は思わず部活へと向かう脚を止めた。





どこか聞き覚えのあるような声だな、とわずかに逡巡した後、思い切って声の聞こえた部屋のドアを軽くノックする。









「………………………すいません、今ここの部屋から……………うわ」










画用紙とガビョウが散乱する室内で、椅子に立った体勢のまま「あーあ」といった顔をしていたのは間違いなく自分の彼女だった。


















彼と彼女の欲求不満 04






















「あー、そこらへんガビョウ散らばってるから気をつけてー」





壁に飾ってある、お世辞にも達筆とはいえない習字の半紙を一枚一枚剥がしながら、は投げやりな返事をする。


床に散らばっているのは剥がした分の半紙とガビョウで、初めはまとめていたそうなのだがバランスを崩した時に全部散らばってしまったらしい。









とりあえず落ちたものを拾うよりもまず壁のものを全部剥がしてから、と散らばった半紙とガビョウはそのままに、は半紙と格闘し続ける。








「………っていうか、なんで先輩1人でこんな事してるんですか」
「いやー、こないだ現国の授業さぼったのがばれてさー。罰として、これ全部剥がせってさ」
「………自業自得ってわけですね」





同情の余地なし、というため息をついてみせた日吉を無視して、は危なっかしい手つきで壁のガビョウを剥がし続ける。










男子テニス部でマネージャーを務めているの運動神経は、日吉が覚えている限りではそう悪くなかったはずだが、どうやら椅子の上でバランスを取るのは苦手らしい。




平衡感覚は優れてないのかもな、と思いながら、日吉はとりあえず手持ち無沙汰に床に散らばった半紙を集め出す。




「………中3にしては随分お粗末な書体ですね……多少マシなものもあるみたいですけど」
「そーゆーのは書道習ってる子達が書いたやつだと思うけど。あ、ちなみにあたしのはコレー♪」
「言わなくても十分わかります」



お世辞にも達筆とは言いがたいの書を発見して、日吉はわざと嫌味たっぷりな口調で言ってやる。











親の仕事の関係上、幼い頃から書を嗜む事の多かった日吉には正直ミミズがのたくったような字の羅列は見るに耐えないのだが、それでも手の中の書が目の前の恋人のものであると分かるとなぜか愛着を覚えてしまうから不思議だ。







贔屓目にも程がある、と、始末におえない自分自身を内心で嘲笑しながら軽く屈んであちこちに散らばった半紙を丁寧な手つきで日吉は集め続ける。




「21、22、23………先輩、あと何枚くらいあります?」
「んー、これで後半分、かな。日吉適当な所で切り上げてくれていいよ。部活行くんでしょ?」
「先輩一人に任せてたら明日の朝までかかりますよ。不本意ですが、マネージャーの業務を手伝うのも、ある意味部員の役目でしょう」
「うーわ、すんげー嫌味な言い方―」





狭い椅子の上で危うげなバランスを保ちながら言ったを屈んだままの姿勢で見上げると、短いスカートの裾がきわどい位置で日吉の視界に映る。




























「……………………………………………」



































予想外の状況にたっぷり3秒ほど固まって、それから慌てて視線を逸らし、たった今まで視界を占拠していたモノに日吉は思わず俯いて赤面する。




















(……いや、別にこういう事を狙って手伝うって言ったわけじゃなくて)



















誰に対してか、内心で言い訳を始めた日吉に気づかぬまま、は平気な顔で爪先立ちのまま半紙を剥がし続ける。


いつだったか誰かが言っていた、他校に比べて極端に短くて有名だというチェックのプリーツスカートがの動きに合わせて右へ左へとひらひら揺れる。


ただでさえ短いスカート・椅子の上・つま先立ち・加えて自分は屈んでいるという条件がそろえば日吉の目に入るものはただひとつしかない。





俯いていてもちらちらと視界をよぎる、黒(多分)のレースから必死で意識を逸らしながら、日吉は務めて冷静な声音を作る。









「っあー………の、先輩。それ取るの、俺代わります」
「へ?なんで?」
「……………………………先輩微妙にバランス感覚悪そうですから。落ちやしないかと不安です」
「え、なにそれあたしバカにされてる?」



あと少しだから大丈夫、いやだから見てるほうが大丈夫じゃないんですって、いくらなんでも落ちたりなんかしないわよ、そういう心配じゃなくてですね、と椅子の上と下で言い争いながらもチラチラと見え隠れするスカートの中に日吉は思わず見上げていた顔を背ける。




けれど、日吉が視線を逸らすと同時、の手の中のガビョウがタイミング悪く宙へ散らばり、反射的に手を伸ばした彼女の体がぐらりと大きくバランスを崩す。














「―え、げ、ちょ、わーっ!!」
「え?なに……………っ!!?」










宙に散らばったガビョウに驚く間もなく、倒れこんできたを日吉は慌てて抱きとめるが重力加速度の法則に逆らえるはずもなく、自分よりも軽いはずの恋人に押し倒される形で2人床へとなだれ込む。











ドスンバタン、という激しい物音と同時に強かに背中に走った鈍い痛み、加えて真上からの強い圧迫。









思わず息が詰まって軽く咳き込んだ日吉の視界には、同じように痛そうな顔をしているの顔のアップ。















「―ったた………あー……」
「……………………」
「いたー……あー…ちょっと日吉ー?死んだー?」
「勝手に人を殺さないで頂けますか」







全く悪びれた様子もなくぺしぺしと頬を叩くに半眼でそう言ってやると、「っつーか、古武術習ってるんならちゃんと受け身とってよね」と耳を疑うセリフを目の前の彼女はつらつらと吐く。


だから代わるって言ったじゃないですか、と皮肉たっぷりにブツブツ言う日吉の言葉を完璧に無視して、は上半身だけゆっくりと持ち上げる。





未だ仰向けになったままの日吉にまたがるような形で座ったに、日吉は心底嫌そうに文句をこぼす。





「全く………怪我がなかったから良かったようなものの、先輩があのとき大人しく俺と交替してればこんな事にはならなかったんですよ」
「え、なにいきなり責任転嫁?彼女にそんな冷たい事言っちゃうわけ?」
「責任も何も事実を述べているだけです。―そろそろ部活に行くので退いてください」





不機嫌そうに言った日吉にまたがったままの体勢で、負けじとも不満そうな顔をする。


こうなったら厄介なんだよな、と思いつつもう一度退く様に促した日吉の視線を無視して、はふと思いついたように口を開く。









「…………………この体勢ってさ」
「?……はい?」
「エッチの時と一緒だよね?」
「っ!?」









一瞬にして意味を理解した日吉が慌てて起き上がろうとするのを、は両腕で押さえつけてにんまりと笑んでみせる。






何を、と言い掛けた日吉の唇を人差し指で軽く塞いで、は声をひそめて囁く。











「…………しよっか?」
「え?」
「エッチ」










艶めいた笑みを浮かべながらなんとも強引な手つきで日吉の制服に手をかけたを、下敷きにされた張本人は慌てて大声で制してみせる。


明らかにヤル気満々、といった表情のが止められた事に逆に不満そうな顔をするのに、一瞬自分が間違った行動をとったのかと思いながらも日吉はに説得を始める。






「が、学校ですよ?一体何考えてるんですか!!ここ、学校ですよ!?(二度目)」
「学校だとやっちゃいけないって校則でもあんの?跡部なんか部室でヤリたい放題じゃん」
「あの人は生きてる次元が違うからいいんです!今ここでやったら不純異性交遊になるじゃないですか!!」
「え、じゃあこないだお風呂でヤったのはなんなの?」
「あ、あれは、・・・……………」



とにかく場所が問題なんです、と真っ赤な顔で続けた日吉の首筋をつうっと這うようにが舐めると、組み敷いた体がびくっと身震いする。
























日吉だって本心はやりたい。けれど、理性がそれをやめておけ、とブレーキをかける。























ここで本能に負けてしまっては、と必死で抵抗する日吉にむなしく、14歳の若い体はあっさりと持ち主を裏切る。
















「……………なんか、硬いの当たるんだけど」
「っ!!」
「…………………勃ってるでしょ?」



なんだかんだ言って日吉もやる気なんじゃーん♪、と嬉々としてネクタイを解きにかかったに、日吉は慌てて胸元を押さえて抵抗してみせる。











今ここでヤるのはマズイ、そう考えてはいるのだが、一度勃起してしまった自身はそう簡単におさまってくれる気配はない。

どこか男子トイレにでも駆け込んでさっさと抜いてしまえばいいのだが、いかんせん目の前の恋人がそうそう簡単に逃がしてくれるはずもない。








「っ、なに脱がしにかかってるんですか!うわ、ちょっと先輩!!本当に誰か来たらどうするんですか!?」
「えー?見せ付けてやればいいんじゃない?」
「何能天気な事言ってるんですか!下手したら退学ものですよ!?」





退学、という言葉に一瞬だけの動きが止まった隙を見計らって、日吉は慌ててほぼ解けかかっていたネクタイを一気にしめる。




「…っ、と、とにかく、今から部活もあるし…いい加減、退いてください」
「退いてもいいけど……でもこんな勃ったままじゃどーせ部活なんて行けないでしょ?」
「だから早くどこかで抜いて…………って、ちょっと先輩っ!?」



どうせ抜くなら1人でも2人でも一緒じゃん、と言いながら、カチャカチャと今度はズボンのベルトを外し始めたの腕を、日吉は慌てて制止する。


「人が言ってる側から何してるんですかアンタは!」
「ナニって…。せっかく抜くんだったら、あたしが楽にさせてあげようと思って」
「けっこうです、自分で出来ますから!」
「1人で抜くなんて寂しくないの?彼女いない童貞男のする事じゃん」


ぐ、と言葉に詰まってしまった日吉を見下ろし、両腕は捕えられたままは密着した腰をゆっくりと前後に動かす。



わざとらしく押し付けるように動かされ、思わず出そうになった声を日吉は慌てて口元を塞いで堪える。




服越しに伝わってくる緩やかな刺激が酷くもどかしくて、今すぐヤりたいと思ってしまった思いを必死で打ち消してみせる。













「……っ、先輩、本当にまずいですって……っ」
「ヤダ。するの」
「あ、馬鹿……っ!」















抵抗する日吉の言葉を完璧に無視してひときわ強く腰を動かしたに、耐えかねていたギリギリの理性がプツリと音を立てて切れるのが分かる。







ここまで誘惑されて尚、我慢出来る男がいるならそれはもう男ではない。







限界まで堪えていた自分に自画自賛しながら、尚も与えられ続ける快感に日吉は素直に身をゆだねる。



















「………………気持ちいいでしょ?」
「……っ、はっ………あ」
「…………ベルト外していい?」

















ゆるゆると腰を動かし続けながら、ズボンのベルトを外しにかかったの手を止める意思など既にない。




カチャカチャと響いた金具の音の後、露わになった自分自身との秘部が下着越しに擦れてゆるやかな快感が生まれる。










「ね、どうしたい?舐めてほしい?触ってほしい?」









緩やかに腰を動かし続けながら選択肢を提示するは、実際日吉が何を望んでいるかなどとっくに知っているはずだ。






「……………っ、あ……っ……」
「ねぇ、どうするの?言ってくれなきゃ手で抜いちゃうよ?」
「…………っ、…………つ」
「それともフェラがいい?」
「………………く………」
「ねえ、どっち?」








小悪魔のような笑みを浮かべて酷く楽しそうに問うてくるにいつものように敗北を感じながら、日吉は未だ口に出すのも恥ずかしい言葉を口にする。


















「………………先輩と、したい……………です」

















に、と勝者の笑みで笑ったに、日吉は『やっぱりこうなるのか』、と小さく諦めのため息をついた。





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あっはっはっはっは!(笑)
日吉はぴばーすでー!すんげえヘタレ!(爆笑)
どんだけ情けないんだコイツ!強いなさんアンタ!(オイ)
明日がサイト2周年!今まで応援してきてくれた皆様に感謝を込めて(一日早いな)(笑)