※ Web拍手でご好評頂いているカレカノ欲求不満シリーズ(いつの間にシリーズに!?笑)の第3弾です。
先に1、2話を読んでいただく事をお勧めします(強制ではありませんが)
(評判がよろしければ4話も検討中です。笑)
密やかに押し殺された、けれど甘い声が吐息混じりにの唇から漏れた。
耳元で吐かれたその吐息のような声に、日吉もまた堪えていたものを吐き出すかのように長い息をつく。
部屋を満たす2人分の荒い吐息が熱を帯びて、室温をあげているような錯覚すらおこす。
くらくらと感じる眩暈は暑さにのぼせたせいなのか、それとも。
彼と彼女の欲求不満 3
「………………暑…………」
何度か浅い呼吸を繰り返して少しずつ整っていく呼吸と共に吐いたの言葉に、日吉は覆いかぶさっていた体をゆっくりとどかした。
先ほど彼女が吐いた言葉どおり、組み敷いた体はしっとりと汗ばんでおり、いつも以上に熱をはらんでいるように思う。
常ならば行為の後もべたべたと引っ付きたがる恋人が珍しく何も言わないのを少しだけ物足りなく感じながらも、クーラーの電源を入れると「ありがと」とは小さく呟いた。
「―シャワー、使います?」
「んー……いいの?」
「大丈夫です、兄貴たちならさっき出て行く気配がしましたから」
しばらくは帰ってこないでしょう、と言いながら差し出されたバスタオルを受け取り身にまとったを、日吉はドアを開けて風呂場へと案内する。
武術を嗜んでるおかげか、気配を読むのに長けた日吉の言葉は正確で、の耳に彼の足音以外の物音は一切聞こえてこない。
真夏の昼間に家族全員で出かけるなんてどんな用事があったのだろうかと疑問に思いながらも、人気のしない家をそろそろと進んでいく。
「ここです。シャワーはそのノズルで温度調節、反対が浴槽の蛇口になります」
「ん、ありがと。着替えは日吉の借りていい?」
「先輩が入ってる間に脱衣室においておきます。ごゆっくりどうぞ」
そう言って静かに脱衣室へのドアを閉めると、ありがとうと言う言葉と同時にパサリとバスタオルを剥いだ音が聞こえて慌てて日吉はその場を離れる。
たった今まで肌を重ね合った間柄にありながら、衣擦れの音ひとつにさえ動揺してしまうのは自分の性分なのか、それとも未熟なせいなのか。
「………………きっと両方なんだろうな」
某ナルシストな俺様先輩や女の扱いに長けた丸眼鏡の先輩が見れば、鼻で笑うであろう自分の有様にはあ、ともう一度浅いため息をついて日吉は自室に向かう。
とりあえず、彼女のサイズに合った服を探さなくては、だ。
◆ ◆ ◆
脱衣室には、が巻いていたバスタオルが剥いだままの形で無造作に床に置いてあった。
しばらく逡巡した後、日吉はそれを手に取り洗濯機に入れる。
「―先輩、着替えとタオルここに置いておきます」
曇りガラス越しにぼんやりと見える彼女の輪郭をなるべく見ずに声をかけた日吉に、は浴室のドアを開けて顔だけを覗かせる。
「若、シャワーが出ないんだけど」
「……………シャワー?」
困ったような顔をしてそう言ったの言葉に反して、浴室からはザー、という水音が響いている。
水の音しますけど、言った日吉に、「水しか出ないんだって」とは首を傾げて答える。
「つまりお湯が出ないって事ですか?」
「うん、そう」
「…そこの温度調節レバーを確認してみました?」
「…………どれ?」
これかなー、と言いながらが色々な蛇口をひねえる気配が聞こえて、いささか不安になりながらもしばらくすると浴室内に湯気が立ち込めてきたのが分かる。
とりあえず安心して脱衣室を出ようとすると、再びひょい、と開いたガラスの隙間からが顔を覗かせる。
「ねー若―」
「まだ何か分からない事でも?」
「一緒に入ろっか」
「………………………………………は?」
何言ってるんですか、と言い掛けた日吉の言葉を無視しては「中で待ってるからー」と言い、ピシャリとドアを閉める。
「……………………………………え」
一緒に入るって何言ってるんだ、そんなの無理に決まってるだろ、いや本当は嬉しいけど、って何考えてるんだ俺、と悶々と悩む日吉をよそに、浴室からは呑気なの鼻歌が聞こえてくる。
こういうのは、普通、男の方から、誘うもの、では、ないのだろうか。
理性と本能、そして男としてのプライドの狭間で悩み始めた日吉がようやくその場から動いたのは、それから15分後の事だった。
◆ ◆ ◆
「………で、結局こうなるわけですよね」
そう狭くない浴槽の中、乳白色の湯の中で膝を抱えるようにして浸かっているを見ながら、日吉は複雑そうにそう呟く。
にごり湯の入浴剤のおかげで相手の肌は見えないが、ひとつの浴槽に2人の人間が入るとなれば必然的に体は近くなる。
時折湯の中で触れてしまうの肌に動揺しつつも、務めて冷静な顔を日吉はする。
「…………親父達に見つかったら殺されかねない状況ですよ」
「あはは、確かにー。若のお父さん厳しそうだもんねー」
「厳しそう、じゃなくて厳しいんです」
道場を経営する父親は『 厳格 』という言葉をそのまま形にしたような頑固者で、『 嫁入り前の大事なお嬢さんに傷をつけるな 』というのは常日頃から言われている言葉だ。
母親と祖母はそうでもないが祖父に至っては父以上の頑固者で、男女交際に関しては『 節度ある清きお付き合いを 』と真顔で言ってのける程の人物だ。
「……祖父さんとか竹刀持ち出して叩かれそうですね。兄は……なんだかんだ言って俺の事庇ってくれそうですけど」
「ああ、隆さん?若ってお兄さんと仲いいもんね。うらやましーなー」
「……………………別に仲いいとは思いませんけど」
思いっきりしかめ面をして言う日吉をくすくす笑いながら、は乳白色の湯をぱしゃ、とすくい上げて日吉にかける。
小学生の水遊びのように、ばしゃばしゃと水面を波立たせて無邪気に暴れるを日吉は呆れた顔で見る。
湯船からあふれ出る白い湯がタイルを流れていくのを勿体無いな、と思った時には、浴槽の湯は既に半分くらいまでに減った後。
「……暴れすぎですよ、先輩」
「んー?」
「お湯、殆どないんですけど」
首下くらいまであったはずの湯が、胸下ほどまでに減ってしまっている事に今更ながら気づいたのか、「あ」という申し訳なさそうな顔をはする。
先程までにごり湯でかくれていたはずの白い胸元や肩が顕わになっており、思わず視線を逸らした日吉をはにやりとした顔で見る。
「そぉんなあからさまに目ぇ逸らさなくてもいいんじゃない?せっかくこんな状況なんだしィ、もっとじろじろ眺めてくれていーよォ?」
「……語尾を伸ばすと明らかに馬鹿だとばれますよ。…先輩には恥じらいってものがないんですか」
「今あたしさり気に馬鹿にされた!!?……日吉こそ、今更恥ずかしがる理由がわかんないんだけど」
「俺にはあなたの方が理解不能です」
さらりと毒を吐いた日吉をじとりと睨み、けれど言い返す言葉が見つからなかったのか、は大人しく湯船に埋まる。
少なくなった湯の中、自然ぴったりと寄り添ってきたを見て日吉は視線を宙へ逸らす。
「―そろそろ出ましょうか。このままだと風邪引くかもしれませんし」
「もう出るの?」
「………このままだと出れなくなりますよ」
暗に揶揄して言った日吉の言葉に、は寄り添った体を離さないまま上目遣いで応えてみせる。
ほんのりと色づいた薄い桃色の肌を、水滴がなめらかにすべり落ちていく。
ぽたりと響いた水音が合図だったのか、どちらともなく伸ばした手が互いを掴み、合わせた肌が熱を帯びる。
「…………もうちょっとだけ、入ってよ?」
「……………風邪引いてもいいんですか」
「今から暖かくなる事すればいいんじゃない?」
ひそひそと囁くように言葉を交わしながら、唇を重ねあい、肌を合わせる。
キスの合間に伸ばした手で柔らかい肌に触れると、初めはくすぐったそうにしてたの顔が徐々に艶めいたものへと変わっていく。
白く濁った湯の中、探り当てた両脚の間に指を伸ばすと、甘い声をあげてがぴくりと震えた。
「―っ、ふ…………あ、……っ」
湯気のこもった浴室に、反響したの声が響き渡る。
いつもより我慢してるのか、押し殺したようにかすれた声を出すその唇を、日吉はキスを落として塞いでやる。
「………最初から狙ってたんでしょう?」
「……………んっ、……………何、を……?」
「こうなる事を」
こうなる、という言葉に合わせて耳朶を噛んだ日吉に、は甘い嬌声だけで応えてみせる。
やっぱりな、という確信をもって指を動かすと、びくりとひときわ強く体が跳ねる。
(…………………でも、それでも俺はこの人には敵わない)
自ら選んでるようで、結局は彼女の手の内で踊らされてる自身をどこか面白く思いながら、日吉は湧き上がる欲情にただ身を任せた。