彼と彼女の欲求不満 2
「………っあ、――――んんッ!!」
「……………………………っ!」
かすれたような甘い声と共に、腕の中の恋人がびくりと小さく震えた。
2、3度体を震わせた後、一気に脱力したの姿を見て日吉もまた全身の力を抜く。
そう狭くはない室内は2人の吐く熱い吐息で充満しており、ベッドの中触れ合った素肌はうっすらと汗ばみ甘い香りを放っている。
「……大丈夫、ですか?」
「ん、へーき……」
未だ瞳をきつく閉じたまま途切れ途切れにそう答えたひとつ年上の恋人を見下ろしながら、日吉はの眦に浮かんだ涙を優しく拭ってやる。
ゆっくりと開かれた瞳は予想通り熱と快楽に潤んでおり、その表情にさえ惑わされそうになる自身をなんとか抑えて日吉は努めて冷静な声を出す。
「………声、我慢してくださいってあれ程言ったのに。絶対兄貴にばれてますよ」
「………………終わって早々言う事がそれ?これでも我慢した方なんだけど」
「あれで?絶対隣に聞こえてますよ」
後で思い切りからかわれるな、と思いながらゆっくりと覆いかぶさっていた身体を離そうとする日吉の首を、はその細い腕を絡めて引き寄せる。
ぎゅう、と強く抱きしめられ、押し付けられた柔らかい体に落ち着きかけた欲情が再び湧き上がりそうになり、慌てて絡みついた腕をほどく。
体はまだ覆いかぶさったまま、上半身だけ起こしてふう、と小さく息を吐いた日吉をはひどく不満そうな瞳で見る。
「そんな急いで離れなくてもいいのにー。もうちょっとくっついてたっていいじゃん」
「………いつ誰が入ってくるかも分からないのに、このままの格好ではまずいでしょう」
「………………そりゃそーだけど。余韻くらいゆっくり味あわせてよ」
ねーねー、としつこく腕を伸ばしてくるを無下に追い払う事もできず、未だ一糸纏わぬ体をなるべく見ないようにして日吉は床に散らばった服に手を伸ばす。
隣室の兄どころか、階下には両親・祖父母もいるというのに、我ながらよくもまあ大胆な事をしたものだ。
脱ぎ捨てられたシャツを手に取りベッドに腰掛けて袖を通す日吉を、は寝転んだままとろりとした瞳で見やる。
「……起きれそうですか?」
「んー…キスしてくれたら起きる」
「寝言は寝てから言って下さい」
ぴしゃりと切り捨てるように言った日吉の返答に、は無言の寝返りで反論する。
どうやら自分で起きる気は全くないらしい。
しばらくベッドに腰掛けたまま無言で見つめるが、全く動く気配のないに日吉はわざとらしく浅いため息をついてみせる。
白くすべらかな背を向けたまま動かない彼女をしばらく眺め逡巡した後、日吉はの額に軽いキスを落とす。
「……………はい。これで起きてくださいよ」
「口には?」
「……………………………………………………はあ」
寝転がったまま瞳を閉じて唇へのキスを催促してくるにもう一度深いため息をついて、触れるだけのキスを唇に落とす。
柔らかく甘い唇に離れがたい魅力を感じながらも、どうにか自制心を総動して離れようとするとねだるようにもっと、と舌を絡ませられる。
「せんぱ、ちょ……っ」
「ヤダ、もっと」
「……………………っ」
口内でうごめくの舌に、耐えかねてた欲情に再び火がつくのを感じて半ば強引に彼女の肩を押して離れると、名残惜しそうに舌が去っていく。
欲情してるのは彼女も同じなのか、薄く開かれた瞳と唇が濡れた光を発してひどく扇情的だ。
「……なんでキスやめちゃうの?」
「…………これ以上こうしてると、我慢できなくなります」
「我慢?」
何を、ときょとんとした表情で問うてくるから目を逸らして黙り込むと、しばらくして意味を理解したのか「ああ」と納得したような声を出される。
「いーよ別に。もう一回、しよ?」
「…………隣。兄貴がいるって何回言わせる気ですか」
「どうせさっきのでばれてるんだからいーじゃん」
何を今更、と馬鹿にしたように言い返されそれはそうだが、と思いかけた自分を慌てて抑え込み、日吉は否定の言葉を繰り返す。
「一度ならまだしも二度は無理です。ほら、早く服着て下さい」
「ヤダ。日吉だってホントはもう一回やりたいでしょ?」
「………………………………………………………………いいえ」
「嘘。体はやる気まんまんじゃん?」
「っ、え、あ」
戸惑う間もなく触れられた体に自らの欲望を思い知らされ、慌てて下半身を隠すが時既に遅し。
じゃー次あたし上ねー♪と言いながら先ほどと逆に押し倒され、至近距離でにんまりと微笑まれる。
「っ先輩、本当に、駄目、です、って!」
「大丈夫大丈夫、今度はあたしが気持ちよくしてあげるから♪」
「駄目、だ……って、言って…………………っあ、」
巧みに誘惑してくるの指に、煽られた体は既に限界。
またがるように覆いかぶさってきたに抵抗する意思など既に消えうせ、低い声で日吉は呟く。
「………この後俺はどういう顔をして兄に会えばいいんですか」
「えー?日吉が声我慢すればいいだけじゃない?」
「………………あなた相手に我慢出来るわけないでしょう」
声すらも抑えられない、それほど自分は彼女に溺れてる。
押し倒されのしかかられた体勢のまま、自身への情けなさからため息をついた日吉をは嬉しそうな顔で見つめる。
どこか照れを含んだ恥ずかしそうなその表情にすら、どきりと高鳴るのが分かってどうしようもないくらい彼女が愛しい。
どうやら自分はこの人に、体だけでなく心も相当おぼれているようだ。
◆ ◆ ◆
あっはっはっはっヘタレすぎだよ日吉!(笑)
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