「気の毒な人」





















もうこれはジャッカルか真田しかいないんじゃないかな!(断定)









手にした指令書をグッと握り締め、選手待機所の方へと視線を向けると不安そうにこちらを伺うレギュラー達と視線が合う。


グラウンドを挟んだ向こう側、かち合った7人(+魔王1人)の必死そうな視線に思わず怯みそうになりつつも、立ち止まった脚を一歩前へ踏み出す。














「…………なんか先輩こっち向かってません?」
「………ああ、向かってるな」
「……うむ、向かっている」











怪訝そうな顔をする赤也を無視して、こちらを見つめ続ける真田とジャッカルに狙いを定めて猛ダッシュすると、放送席から軽快なアナウンスが響く。







『 おおっと、現在トップの男子テニス部マネージャー、グラウンドを突っ切ってます!一体どこへ向かっているのでしょうか!?そして指令書の内容はーッ!? 』






敷地内に響き渡るアナウンスをうるさいと思いながらも必死にグラウンドを走りぬけ、選手待機所で雁首並べている仲間達の下へ一目散に走り寄る。


初めは戸惑ったような顔をしていた皆の表情が、近づくにつれ明らかに強張ったように引きつるのを、息も絶え絶えになりながらギロリと睨み付けると一斉に視線を逸らされる。






「…ッ、さ、さな、真田………っ、か、ジャッカル…………!!」
「「は!!??」」
「どっちでもい、から、早く来て!」




ぜーぜーと呼吸の合間に絞りだした声でそう叫ぶと、「「 俺!!?? 」」と真田とジャッカルが2人揃って悲壮な悲鳴をあげる。

名前を呼ばれた2人以外の人物があからさまにホッとした顔をするのを横目で見ながら(チクショウお前ら、いつか絶対痛い目に合わせてやるからな!←酷)早く、と急かすとずざッと勢いよく2人が一歩下がる。




「ジャ、ジャッカル、呼ばれているではないか、早く行って来い!」
「な、なんで俺なんだよ!真田こそ副部長らしく堂々と行って来いよ!」
「お、俺はこの後のレースに控えて体力を温存する作戦でだな………」




あからさまに醜い譲り合いを繰り広げる彼らに苛々と舌打ちを落とすと、ビクッと赤也たちの肩が跳ねる。




幸村のヒモ無しバンジーだけはごめんだ、と、未だ言い合う真田の帽子をガシッと掴み、そのまま頭ごと勢いよくグラウンドへ引っ張り出す







「んなッ!?な、何をする、こら!はな、離せ、離さんか!」
「離すわけねーだろ、この老け顔が!こっちは命かかってんだよ!グダグダ言う暇があったらとっとと走れ!」
「ふ、ふけ……老け顔……!?」
「だからちゃっちゃと走れっつってんだろーがこのヘタレ年齢詐称男が!!もしヒモ無しバンジーさせられたらテメーの上に着地してやんぞ!」
「………………………ねんれい……………………さしょう……………………」




呆然としてしまった真田を激しく叱咤し、どうにかコースへと引きずり出してそのまま一目散にゴールを目指す。



最初のスタートダッシュが良かったのか、それとも他の子も指令書に手間取ってるのか、未だ誰一人ゴールしていない白いテープを目指してひたすらに走る。走り続ける。













『 ―おおっと!男子テニス部マネージャー、選手は副部長の真田君を連れてきました!早い早い!一位はどうやら男子テニス部になりそうです! 』







白熱したアナウンスと応援に応える余裕などなく、必死で走り続けるあたし達の前で白いテープがひらひらと揺れる。



減速する事なく勢いよくゴールへスライディングしたあたし達に、わあッと一段と激しい歓声があがる。









『 今、一位がゴールインしました!一位は男子テニス部選手!一位は選手です! 』










到着すると同時、地面に両膝をついて必死に呼吸を繰り返すあたしの横で、「老け顔…………年齢詐称…………」と、しゃがみこんだ真田がいじいじと土を掘り始める。

中学テニス界の皇帝にしては情けなさ過ぎるその姿に、ちょっと言い過ぎたかなあ、反省しかけたあたしの下へ、待機していた赤也たちが嬉しそうに駆け寄ってくる。







先輩、すっげー!一位じゃないっスか!やったー!!」
「喜ぶのはまだ早いぞ、赤也。個人で一位をとっても総合で一位をとらないとヒモ無しバンジーは避けられないからな」
「それでもこの一勝は大きいですよ。さん、よく頑張りましたね」
「ああ。お前の努力、無駄にはせんよ」
「おうッ!後は俺達に任せとけぃ!」





わきあいあいと声をかけてくる皆に少し照れながらも笑顔を返し、未だいじいじと地面を掘り続ける真田を横目で見やる。









明らかに中学生にはみえない容姿の男が、しゃがみこんでブツブツ呟きながら土をいじるその光景。












「……………………………………」
「「「「「「「……………………………………」」」」」」」
































「………………………………なんてゆーか、さあ……………本当、『 気の毒な人 』だよねえ………………」


















ぶつぶつと「老け顔………年齢詐称………」と繰り返す真田の背後であたしが広げた指令書を見た皆が一同に、









「「「「「「「……………確かに」」」」」」」








と言って頷き可哀想なものを見る瞳で真田の背中を見つめる。






余りにも憐れなその光景に、思わずマネージャーをやめたくなった体育祭の出来事でした。





◆ ◆ ◆


最後は真田でシメてみました(笑)
真田でラブ(笑)とか無理。しんけん無理(笑)
やっぱ真田はヘタレじゃないとね!
そんで皆に哀れまれてればなお最高だよね!