「 バカな子 」














「………………………………………………」











開いた指令書に記されていた、たった4文字の言葉に思わずもう一度紙面を読み返す。



……………うん、何度読んでも【 バカな子 】としか書いてない。




手にした指令書を開いたままフリーズしてしまったあたしに、放送部員の『おーっと!?男子テニス部選手、固まってますね!』というハイテンションなアナウンスが遠くに聞こえる。





いや、そりゃフツー固まるだろう。







バカな子って、誰を連れて行っても指令書読み上げた時に責められるではないか。


あれか、この競技は友情を破壊することを目的にでもしているというのか。















「…………なんか動かなくなったぜぃ?」
「誰にしようか悩んでるんじゃろ?指令書の内容が難しかったんやないか?」
「………………にしては、随分深刻な顔してないッスか?」







だいじょーぶかなーと呑気に呟く赤也の言葉に、はっ!と意識が覚醒して勢いよく声のした方を向く。





視線の先でちょっと心配そうな顔をしてこちらを見てるのは、テニス部後輩の切原赤也。





……………………………バカ、発見!!(酷)



目標補足、とばかりに一目散に選手待機所に駆け出したあたしに、心配そうな顔をしていた赤也の顔が、徐々に驚きを含んだものへと変わっていく。

とりあえず後腐れのなさそうな、且つ事実上のバカの目の前で「赤也、一緒に来て!」と叫ぶとパチクリと吊り上った目を見開かれる。



「来てって………俺が借り物って事っスか?」
「うんそうそうそうそう、いいから早く!」
「え、ちょっと、先輩、ソレって指令の内容なんなんスか!?」



ぐいぐいと引っ張るあたしに戸惑いながらも抵抗しつつ問いかける赤也にチッと舌打ちすると、「あ、もしかして好きな人とか!?」と180度違う内容を彼は口にする。




何を言ってるのかなこのバカタレは






「…………………ほう、は赤也が好きだったのか。新たなデータを発見したな」
、言うてくれたら協力してやったんに…………なあ柳生?」
「仁王君、人の色恋に口を出すものではありませんよ。全くこれだから貴方という人は…………」
「きょ、競技の最中にこッここここここく、告白などふしだらな!たるんどる!」
「真田ぁ、自分が告白された事ないからってひがむなよ」
「………………………っつーか、お前らレースほっといていいのかよ」




ポツリとおとされたジャッカルの言葉に、全員ハッ、と意識を取り戻し、皆がずずいっと赤也を前に差し出す。

先程までの会話の内容を訂正してやりたいのを必死で我慢して、嫌がる赤也の腕を問答無用でがしりと掴む。


「走るよ赤也」
「え?」
「うおりゃあああああああ!!」



赤矢の腕を掴むなり、脱兎のごとく走り出したあたし達に注がれる好奇の視線を無視して一目散にゴールへと文字通り転がり込む。

既に2、3組のペアがゴールをしていたが、これくらいなら他の皆が一番を取れば総合で優勝出来るはずだ。






ひーひー、と荒い呼吸を繰り返しながらへたり込んだあたしの隣、未だ腕を握ったままの赤也も引っ張られて地面にしゃがみこむ。



「っはー、めちゃめちゃ先輩足速いっスねー!俺ちょっとびびった!」
「ッひー、はー…………な、なんとかビリじゃ……なかっ、うぇゲホッ、助かっ………グフォッ!



咳き込みながらも途切れ途切れに安堵の言葉を呟いたあたしに、実行委員の「それじゃ指令書出してくださーい」という業務的な声が届いて下を向いたまま右手だけ差し出す。

未だ整わない呼吸に肩を上下させるあたしに、「大丈夫っスかー?」と呑気な声をかけてくる赤也を見上げるとなんともけろりとした表情。



畜生、この体力の差が恨めしい!





「えーと……男子テニス部マネージャーさんが連れてきたのは2−Aの切原赤也くんですね………指令の内容は……………………………」
「「………………………………」」
……………………………………………………………………………ああ、はい。全然OKです

指令どおりですね、お疲れ様でしたー、と事務的に言って去っていこうとする実行委員の背中に、「え、ちょ、何!?借り物の内容なんだったんスか!?」と赤也が悲鳴のような問いかけを発するが、答える声は勿論ない。



紙切れの内容を読み上げなかった事にちょっとだけ感謝しながらぎゃあぎゃあ騒ぐ赤也にくすりと笑みをこぼすと、途端にむくれた様な顔になる。



「……ひどいっスよ、センパーイ………。めちゃくちゃ気になるじゃないっスかー……」
「ハイハイ、終わった事は気にしなーい。赤也走るのまだだったよね?本番レース前に走らせてゴメンねー」
「絶対悪いと思ってないでしょー!?ねえ先輩、結局なんだったんスか!?」



でかい図体で腕にしがみつきながら、ねーねー、としつこくねだる後輩を軽く振り払い、スタスタとフィールド出口に向かう。

背後から聞こえてきた、「気になって今夜眠れなくなったら先輩のせいっスよ〜………」という恨めしそうな呟きに肩越しの笑みを向けると、訝しげな顔になる。








「ホント、赤也ってバカだねぇ」
「へ?」
「一晩中、あたしの事を考えるつもりですか?やーらしーい♪」








これだから青少年は、とクツクツ笑いながらグラウンドに背を向けたあたしに、「ちッ、ちっげー、違いますよ、先輩!」という必死な赤也の声が響く。

見なくても分かる、きっと真っ赤な顔をしてるだろう後輩に湧き上がる笑みを堪える事ができない。









「………………………ほんっと、馬鹿だよねえ」








もう一度呟いた声に返る言葉は勿論なく、喚き続ける赤也の声だけが澄んだ空へと消えていった。







◆ ◆ ◆

うああああもう無理!駄目!
あたし赤也大好きなのに!(涙)
ごめんなさい赤也ファンの方々!
なんかもう文章支離滅裂……orz