「…………………この世で一番怖いもの………?」













手にした紙切れを見て思わず3秒ほどフリーズしてしまったあたしに、「先輩、何固まってんスか!早く早く!!」という赤也の悲鳴のような声が響く。


次期部長を担う立海のエースもやはり幸村の罰ゲームは受けたくないのだろう、あたしを応援するよいうよりも自らの保身の為に必死なその姿に、思わず目頭が熱くなる。











『 さあ、サッカー部マネージャーの選手は何を探しに行ったのか!?おーっと!バスケ部マネージャーはどうやら外国語担当の先生だー!これは指令の内容が気になる所! 』











手にした指令書を握ったまま固まってしまったあたしの耳に、次々と指令にたどり着いたマネージャー達のアナウンスが響く。


とりあえず指令をこなさなくては、と思うのだが、硬直した体は思いに反してなかなか一歩を踏み出そうとしない。









だって、この世で一番怖いものなんて、幸村以外何があるっていうの!!!













「…………のう、なんだかのヤツ心なしか涙ぐんでるように見えるんじゃが……」
「よっぽど難しい事でも書いてあったのでしょうか?………それにしても、このままだと確実に負けますよ。大丈夫でしょうか?」
「罰ゲームだけは勘弁だぜぃ…。、嘘でもいいから誰か借りてこーい!!」
「あ、先輩、走り出したっ」













口々に好き勝手叫ぶレギュラーを完璧に無視して、とりあえず走り出したあたしに『おーっと、テニス部マネージャー選手、今走り出した!』と軽快なアナウンスがかけられる。













罰ゲームだけは嫌だ。
何があっても絶対嫌だ。










そう、例えゴールした後に指令書を見た幸村に絶対零度の微笑みを刺し差し向けられようとも!!






痛いほどの注目と、レギュラー陣の刺し殺すような切実な視線を感じながら観客席と正反対の来賓席の隣、救護班のテントへとダッシュする。










「―おい、救護班のテントの中入ってったぜぃ!?」
「保健の先生でも借りにいったんか?……………あんな所から借りれる人物なんて、怪我人か病人くらいしかいないじゃろ」
「………………いや、あと1人だけいるぞ」





成程な、と腕をくみながら呟いた柳に、ジャッカルが「あ」と納得のいったような顔をする。
未だ状況を読めてない赤也が不思議そうな顔をするのが、が手を引いてきた人物を見て「うわあ……」とかすかに同情したような声になる。









『 ―おーっと!?これは意外!!男子テニス部マネージャー、選手が連れてきたのはなんとテニス部部長の幸村精一さんです!!これは予想外の展開!指令書に書かれた命令はなんだったのでしょう!? 』

「「「「「「「「キャー!!幸村くーん!!」」」」」」」
「「「「「「幸村せんぱーい!!きゃー!!!!」」」」

『今日の体育祭は見学のみ、と、テントに控えていたはずの幸村さんの登場に、ギャラリーは騒然です!あ、これは早い!これは早い!!』












「………幸村の奴、自分はちゃっかり救護テントで高見の見物かよ…………ずりーぜぃ」
「俺達を監視している、というアピールなのだろうな………。下手な真似は出来ないぞ、弦一郎」
「……………………………ああ、そうだな…………連二…………・」
「っつーか、幸村部長めちゃくちゃ早くないッスか!?」
「………………あれで見学って、説得力ないのう………………」













『 早い早い、さすがテニス部部長、ぐんぐんゴールに近づいていきます!本当に早……………え、いや、ちょっ………
マジで早くね!!?



あまりの速さに支離滅裂なアナウンスの通り、手をつないで、というよりほぼ幸村に引きずられて(文字通りホントに地面を引きずられた)あっと言う間にゴールへ到着。



スタートこそ早かったものの、借りに行く時点で他の人よりかなり出遅れたというのに、なぜ私達はゴールで白いテープをきれたのだろう。

魔王の前にはきっと世間の常識とかそんなもんは通用しないに違いない。





「ちょ……・・・っゆき、アンタ……っほんと……っはや……すぎ……っ!」






ひーひーと膝をついて肩で息をするあたしと正反対に、なぜか汗の一粒もかいていない幸村はさらりとその髪をなびかせながら爽やかに口を開く。



「いやあ、まさか俺が借りられる側になるなんて。今日は本当に見学のつもりだったんだけどな」
「…………な、……………・・で……………っ」(なんでコイツ息ひとつ乱れてないんだ!?本当に人間なのか!?)
「やだなあ、俺はれっきとした人間だよ?
「ヒャイ!!」





にこにこにこにこと至極上機嫌で語る幸村は本当に同じ人間とは思えないくらい爽快で、ようやく息が整ったあたしを見て「ところで」と瞬時に低い声音になる。



「俺を連れてきたっていう事は……………この指令書の内容、なんだったんだい?」
「……………えーっと。……………………『そ、尊敬する人?』」
「へえ、それはそれは光栄だな。じゃあその手の中の紙に書かれた『この世で一番怖いもの』っていうのはなんなんだい?
「ひぎゃあああああああ!!!!!」



















「………………うわーかわいそー………」
「見るな丸井。目ぇ合わせたら石になってしまうぞ」
「幸村が楽しんでる確率120パーセント………」
先輩、災難ッスねー…………」









こうしてその後のレースでも、なんとか各自一位を取れた立海男子テニス部は、部活対抗戦総合では勿論一位でした。








◆ ◆ ◆






「ねえ、?」
「………ナンデゴザイマショウカ、幸村様……」
「たかだか200メートル走っただけであんなくたびれてちゃダメだよ?世の中にはもっと体力を使わなきゃ挑戦できない体位が山程あるんだから」
「スイマッセーン!誰か!誰かもうホントに助けて下さーい!!!」









結局一位を取ろうが取ろうまいが、幸村のお仕置きを受けてしまったあたしは、来年の体育祭は絶対に参加するものか、と固く心に誓う事しか出来ませんでした。



めでたくなし、めでたくなし!(涙)





◆ ◆ ◆

うーん、幸村贔屓(笑)
幸村好きだからついつい長くなっちゃうんだよなー(苦笑)
初めて逆ハー………っていうか、選択アリの夢書いたけど、難しいですねお母さん!(誰)