「めっちゃ綺麗な脚しとるやろ?」
そう言って忍足が広げた雑誌の一面にいたのは、あの有名な。
< 優しい手当て >
「…荒川静香?」
「せや。さすが金メダル取るだけはあるやろ。フィギアの中でもダントツや」
なぜか忍足が自慢げに開いた雑誌の見開きページには、氷上の天使たち、と書かれた大きな見出し。
カラーの何点かの写真には、テレビでもよく見た事のあるフィギア選手の姿。
ユニフォームに身を包んだ彼女らのすらりと伸びた脚を、忍足が満足げに見つめている。
「…………………………忍足、やらしー」
「は?なんでや?」
「なんで注目するのが脚なの。金メダル取ったのは、彼女の演技でしょ、演技」
「わかってへんなぁ、。あの美脚は、男のロマンやねん!」
いきなり脚について熱弁しだした忍足に、軽蔑したような視線を向ければ逆にふん、と鼻で笑われる。
「―まあ、所詮お前が逆立ちしたって敵わないって事や。荒川静香が金メダルなら、お前はせいぜい参加賞ってトコや」
「うっさいわね、変態エロ眼鏡。言っとくけどフィギア選手じゃなくても脚の綺麗な人なんて沢山いるんだから」
「そういう奴に限って口だけだったりするねんて」
ははん、と哀れむような視線を向けてきた忍足に、さすがに堪忍袋の緒が切れそうになり、持っていた鞄をばん、と置いて叫ぶ。
「アンタあたしを馬鹿にしてるでしょ!?見てなさい!イナバウアーくらい…こう…!こうよ!ほら、出来ぃだだだだだだだぁあああああああ!!???」
「ぎゃああああああああああォおおおおおお!!??」
◆ ◆ ◆
「いっだー!!いだだだだだだだ痛い痛い痛いぎゃあああああ!」
「あーハイハイ、もうちょっとで終わるから我慢しぃ」
「ムリムリムリムリ、イタイイタイ!」
保健室の丸イスに腰掛けたあたしの足首に、忍足が起用に包帯を巻いていく。
すぐ近くにいた跡部の的確な指示で、流水で冷やしはしたものの、まだ足首は腫れたままで。
「捻挫でよかったなー。骨折とかしとったら、2、3ヶ月は松葉杖やで?自分、骨まで丈夫やねんなぁ」
「いだだだだだ痛い痛い!もっと優しく巻いてー!!」
「自分が暴れるからや。―ほい、終わり」
「いったー!!」
ぽん、と巻き終わった包帯の上から忍足が軽く足首を叩く。
そのちょっとの刺激にもズキズキと痛む足首。
椅子に座って脚を伸ばしたまま、恨めしそうな目で睨むと奴は眼鏡の下から苦笑を返してくれる。
「そない恨みがましい顔せんでも。すぐ治るて」
「だって痛かったんだもん!もうちょい優しく手当してくれてもいいと思う!」
「何言うてんねや、俺めっちゃ優しかったやん」
あー、もう部活終わるなぁ、と小さくため息をついて言う忍足は、ちっともあたしを心配してる様には見えず。
救急箱を片付け始めた忍足を睨みながら、包帯が巻かれた右足首をそろそろとさする。
「………もとはと言えば、忍足が荒川静香なんか見てるから悪いんだよ。この変態脚フェチメガネめ!」
「いきなりイナバウアー始めたのは自分やろ!自業自得や!」
「酷い!冷たい!なんでテニス部の人間って、皆冷たいヤツばっかりなの!?」
アレだ、きっと部長の人間性が部員に影響してるんだ、とぶつぶつ言い始めたあたしの足元に、先ほど治療していたように忍足がしゃがみこむ。
何、と言おうとしたあたしをじっと見つめて、忍足はその唇を薄く開いて。
「………………ほんならもっと優しくしてやろか?」
と。
「…は?」
何が、と続けようとしたあたしの言葉は声にならず。
騎士の様にひざまづいた忍足がうやうやしく靴をはかせるようにあたしの脚を持ち上げて。
右足首に巻いた白い包帯の上、赤く腫れた場所に触れるだけのキスを落とす。
「………………!!」
何やってんの、と非難めいた言葉が脳内に浮かぶが言葉にはならず。
驚きのあまりぱくぱくと口を開くだけのあたしを、忍足はメガネの下から上目遣いににやりと見やる。
「…………これで満足か?」
姫さんは、とちゃらけた様に続けられ、ぞくりと今更ながらに戦慄が走る。
「お望みなら、もっと奉仕したるで?」
「い、いいいいいいいい!遠慮します、けっこうですからお気遣いなくぅううううう!」
「優しくしてほしいんやろ?」
「そういう意味じゃなくて!!」
痛む足首を捕えられたまま動けないあたしを、にやにやと面白そうに笑いながら忍足が見上げる。
姿勢だけはひざまづいているものの、完璧に主導権を握った忍足に最早抵抗する術はなく。
「めっちゃ優しくしてやるから、安心しぃ?」
にっこりと嘘くさい笑みを浮かべて言った忍足に、アンタの存在自体が一番安心できないのよ、言い返しそうになったあたしは正しいと思いました。
◆ ◆ ◆
うわぁ忍足変態だぁ……(書いたの自分だろ)
この続きを裏でUPしたいなぁと思っているのですが(笑)
いかがでしょう、皆様(笑)