「……ちょっとちょっと。千石さん」




自分でも冷たいと思った、予想以上に出た硬い声音に。




愛しい彼氏は、オレンジ色の髪をくるりとひるがえした。








< 答えはいつも君だから >













きっと今、世界で一番可愛くない顔してる。

鏡を見なくたって分かる、引きつった笑顔を浮かべるあたしを、目の前の恋人はひたすら怯えたような顔で見る。

その髪色に反してひどく蒼ざめた顔は、どれだけあたしの顔がすさまじいのかを物語っているようで。



「…ど、どうしたのちゃん、その顔…」
「どうしたもこうしたもないわよ!アンタこれ一体どういう事よ!」
「え、ぇ?」



困惑したように言う清純の鼻先に、先ほど入手したばかりの校内新聞を勢いよく突き出す。
始めは戸惑ったように活字を追っていたその瞳が、見る見る間に、「げっ」という色に変わっていくのを腹正しい気持ちで睨みつける。



「ちょ、ちょっと待って待ってちゃん!これはそう、アレだよアレ!そう、俺の話を聞いてくれる!?」
「聞くわけないでしょーがァア!アンタ一体どういうつもり!?この解答!!」
「ち、違うって!これはその、違うんだ!いや違わないけど違うって!」
「うるせぇ黙れええええ!!」



だらだらと冷や汗をかいて必死で言い訳をする清純のオレンジ頭を一発叩いて、既に皺のよった校内新聞を、とどめとばかりに勢いよく握りつぶす。

箇条書きのいくつかの質問の中、『 好きな子のタイプ 』の欄に書かれた『 この世の女の子全部!』という解答。

ぐしゃりとねじれた校内新聞の表紙、笑顔でピースする清純の写真も歪む。




「いってー!!て、痛いってちゃん!落ち着いて、ぎゃー!!」
「うるせー黙れ!!あたしの心の傷に比べれば、アンタなんてかすり傷よ、かすり傷!!」
「ちょ、待って待って阿久津ー!助けて阿久津―!」



怒りオーラMaxのあたしから逃れようと、窓際でジャンプを読んでる阿久津に清純が飛びつく。
あたしが何か言うより早く、「気色わりい!離れろ!」と一発殴られ、きゅう、と床にのびる間抜けな姿。


「ご協力ありがとう、あっくん。……オラ立て清純!
「ひ、ひどい…よ…阿久津……がは…っ」
「うるせぇ。テメーらの痴話ゲンカに俺を巻き込むな」
「…うぅ、ひどい…ひどいよ2人とも…」


ついにさめざめと泣き真似を始めた清純を、あたしはイライラした顔で、阿久津は心底うざったそうな顔で睨む。



「うぜぇ。、ソイツさっさとどっか連れて行け」
「そーね。さしより裏庭のゴミ焼却炉にでも突っ込んでやろーかしら」
「灯油とライターも持っていけよ」



オラよ、とやる気なさげに胸ポケットからライターを投げた阿久津を見て、「燃やす気!?俺、燃やす気!?」と清純が顔面蒼白になって叫ぶ。


「丁度いいからこの新聞も一緒に燃やして……って、これテニス部全員のインタビュー載ってるんだ。……えーと…阿久津の好きなタイプは……【真っ赤なルージュの似合う女】………?」
「うーわ、俺より阿久津の方がよっぽど問題じゃん!中学3年生でそんな事言う奴、俺見た事ないって!」
「うっせーぞ千石!」
「いってー!!」



問答無用で阿久津の鉄拳をくらった清純が、再び頭をかかえて床で身もだえする。

先ほどとは比べ物にならないほどの威力のそれに、ほんのちょっとだけ同情して屈んで頭をさすってやる。



「あー痛そー。アンタ馬鹿ねー」
「ひ、ひどいよ阿久津……痛い…」
「自業自得よ。アンタと比べればあっくんの方がまだマシだっての。『 この世の女の子全部 』って、アンタどれだけ女好きなのよ」
「だ、だって俺……」
「ホラ、さっさと立つ!いつまで床に寝そべってる気!?」



ぐずぐずと床にうずくまったまま、いじけつづける清純の髪を引っ張って無理矢理立たす。
「やめて、はげるー!」と喚く清純を無視して仏頂面のままの阿久津に礼を言う。



「騒がしくしてごめんねーあっくん。清純しばいてくれてアリガトー」
「別にお前のためじゃねぇよ」
「んもう、素直じゃないんだからあっくんはぁ♪」
「うっせぇ。さっさとどっか行け」
「はぁい♪」



クツクツ笑いながら言うあたしをじろりと睨んで、阿久津は読んでいたジャンプに視線を戻す。
未だシクシクと嘆き続ける清純の背中を押して教室を出ようとした瞬間。









「おい


















「何、あっくん?」

















「そいつ、インタビューの時『 好きなタイプは 』って答えて、新聞部部員に『 その解答は不可 』って言われたんだとよ」
















え。














清純の背中を押した体勢のまま固まってしまったあたしに、慌てたように清純は振り返る。








「ちょ、阿久津!それは内緒って言ったじゃんか!!」
「あぁ?んな事知らねぇよ」
「ウソつきー!!阿久津なんか泥棒の始まりだー!」











耳まで真っ赤に染めてぎゃんぎゃん喚く清純を、阿久津は知らん顔で漫画に目を落とす。
















え、いや、ちょっと、待って。


















『 好きなタイプは 』って。


 
















………それは、かなり





















「……………………嬉しいかも」






























◆ ◆ ◆











………その後、「いい加減俺の前から消えろ、バカップルが」と嫌そうに阿久津が言うまで。







お互い赤面して固まってしまったあたし達でした。













◆ ◆ ◆

…終わるがいいさ!(黙れ)
えっと、えっと、大好きな羽音さんに捧げます!(迷惑)
遅くなってしまいましたが、5万打おめでとうございますー!ひゃっほーい!(何このテンション)
「もうとっくに6万打越してますが」とか言わないで!(笑)
千石ですが、ヘタレに仕上がってしまって申し訳ないです!
こんな夢でよければ、もらってくださいませー!