「―お邪魔しまーす………って。うわ」 静かにノックして入った彼氏の部屋の中。 伏せた瞼の下、長い睫の影を頬に落として日吉若は熟睡していた。 いや、熟睡という生易しい表現では物足りない。爆睡、いや爆眠とでも名付けるのが相応しい程の眠りっぷりだった。 眠り姫の災難 少し早めの期末試験を終えて、氷帝学園の生徒一同は訪れるクリスマスと冬休みの計画を前に、胸を高鳴らせる日々が続いていた。 いや、一同というのは少し訂正があるかもしれない。 ごく一部の生徒は、クリスマスだか冬休みだか、そんな浮かれたものに気を取られる余裕などなく、期末試験を終えたこの週末でさえ、慌ただしく働いていた。 ちなみに、その一部の生徒というのは、生徒会長を引退したはずなのになぜか未だに会長業務を任されている3年生の跡部景吾であったり、卒業前の第2ボタンの予約を我先にと申し込む女子生徒から逃げ回る忍足侑士であったり、屋上で昼寝をしたまま一晩明かしてしまい凍死寸前で発見された芥川慈郎を病院へ搬送した樺地宗弘であったり、年末さながらの忙しさに個々追われていた(一部例外をのぞく) そんなさながら、先だって元部長の跡部から正式に次期部長に任命された日吉も、例にもれず慌ただしい日々を送る生徒の一人だった。 2年生になった春頃から次期部長は日吉で決まりだろ、と噂され、それなりの心づもりは出来ていたはずだったが、実際に見るのとやってみるのでは全く違う。 男子テニス部の部長をこなしながら生徒会長も務め、その上学年一の成績を誇り、なおかつ自宅では帝王学や経営学も学んでいたという前部長は、一体どうやってその時間を捻出していたのだろうか。 自らのトレーニングメニューを立てるだけでも大変なのに、いきなりそれが200人分ずっしりと圧し掛かってきた日吉は、改めて跡部の凄さに恐れ入ると共に、自分の未熟さを思い知らされる羽目になっていた。 10月の初めに新部長に任命されてから約2か月、そんな毎日を送っていた日吉が十分な睡眠をとれていたとは確かに言い難い。 加えて、先週まであった2学期期末試験とくれば、ここまで日吉が爆睡しているのも無理はないだろう。 「……うーわ。マジで寝てるよ…」 ため息をかみ殺して、は小さくそう呟きながら後ろ手で静かにドアを閉めた。 気配には人一倍敏感な日吉の事、いつもなら絶対にノックがあった時点で目覚めるはずなのに、目の前の彼はほんの少し眉をひそめただけで一向に起きる気配がない。 「……ガチで寝てるわ……。日吉?ひーよしー?」 控え目ながらも起こそうと声をかけ、ベッドに腰掛けて遠慮がちに肩を叩いてみるが、少し開いた唇から漏れる規則的な寝息が途切れる様子はない。 余程疲れ切っているのだろう、ベッド横に散乱するテニス部員の個人データや練習試合の予定表、対戦校のデータなどを見る限り、考え込む内に予期せず寝入ってしまったのと思われる(常日ごろから身の回りの整理整頓を怠らない日吉が、資料を散らかしっぱなしで眠るはずがない) 一向起きる気配のない日吉の様子に、さてどうしたものか、とベッドに腰掛けたままのはひとつ小さなため息をつく。 出来る事ならこのまま疲れきった彼氏を寝かしてやりたいという気持ちが強いのだが、いかんせん今日は日吉の誕生日」だ。 このまま放っておけば、日吉が目覚めるのはきっと明日の朝か、はたまた飛び越えて夜なんて事態になりかねない。 寝かしてやりたい気持ちと起こしたい気持ち。 両者がせめぎあった挙句、が出した結論は、結局いつものごとく実力行使という名の不埒な行為。 「…………さてと。どっから攻めてやろーかしら」 にやり、と人の悪い笑みをこぼしながら呟いたに、未だ眠りから目覚める事のない日吉はこれから始まる行為を知らぬまま、その端正な眉をほんの少しだけ歪めて答えて見せた。 |
遅ればせながら日吉ハピバ!(笑)
ほんとはカレカノとしてUPしたかったんだけど、エロにつながらなかったー(笑)
この続きがカレカノ5話になったらいいなー。