熱視線













いつものように訪れた日吉の部屋、コチコチと静かな時計の音だけが響く。



付き合い始めの頃のような、緊張のあまりに訪れる気まずい沈黙と違って、お互いを深く知っているがゆえの心地よい静寂のはずだが、隣にいる彼はどうも意識が違う所へいっているらしい。



先程から分厚いミステリーだかホラーだかの単行本を熱心に読みふける様は、どう考えてもあたしの存在などすっかり忘れきっているように見える。






(……………………そういえば、今日って大好きなミステリーシリーズの発売日だったっけ……)





壁にかかっているシンプルな文字だけのカレンダー(日吉らしい)を見て今更ながら思い出すが、気づいた所で時既に遅し。

真剣な眼差しで活字を追う日吉の姿は一種鬼気迫るものがあって、おいそれと邪魔できる雰囲気では到底ない。



手持ち無沙汰に出されたお茶をずずっとすすると、静寂に思いのほか大きく音が響いて、慌てて隣を見るが日吉が気にした気配はない。






いつもならここで「お茶は音を立てずに飲むものです」とか小姑のような言葉が降ってきたりもするのだが、それもない所を見るとよっぽど本に熱中してるのだろう。





(……………………………たーいーくーつー…………………)






少しの嫌味を込めていつもより長めのため息をつき、ちろりと横目で隣を伺ってみるものの、やはり隣からの反応はない。




完璧にする事がなくなったので、仕方なく隣で読書を続ける日吉をとりあえず眺める。












伏せられた薄い切れ長の瞳が活字を追う様は存外絵になっていて、思いのほか見惚れてしまいそうだ。












(……………………………まつ毛ながーい。瞼キレー。こーやって見るとやっぱ大人びて見えるんだよなー…………雰囲気が落ち着いてる ってゆーか…………まあ性格はアレだけど)






テニスをやってる割にあまり日焼けしていない肌はニキビひとつなく、思わずお手入れ方法を聞きたくなるくらいに綺麗に整っている。





(男のくせに肌が綺麗ってなんかムカツクってゆーか、負けた気がするってゆーか…………………………………そーいえば、跡部とかもだよなー。やたら肌とか綺麗だし)







まあアイツの場合、使ってるものが原材料からして違うんだろうな、と虚しく納得して再び日吉に視線を戻すと、唐突に「うるさいですよ」と本から視線を逸らさないまま日吉が呟く。


















「さっきからジロジロと。視線がうるさくて、集中できないんですけど」


















怒るというよりも呆れた様にそう言った日吉に驚いて、「気づいてたの?」と言うと「気づかないわけないでしょう」と本を閉じて日吉がこちらを向く。










さらりとゆれた色素の薄い細い前髪の下、困ったように細められた切れ長の瞳。












「…………………………意外。日吉の事だから、本に集中してあたしの事なんか忘れてるのかと思った」
「あれだけ不躾に見られれば誰だって気になります」
「いやーごめんごめん。ついつい見入っちゃって。今度からは気づかれないようコッソリ観察するねー」
「……………俺はアサガオかなんかの実験植物ですか」





眉をひそめて嫌そうに言った日吉の耳が少し赤いのに気づいて、「耳赤いよ?」というと途端に白い頬にも一瞬にして朱が昇る。


















え、なに。どうしたんですか、日吉さん。





















「………………っ好きな人に、あれだけ見られれば赤くもなりますよ」

















どこかやけくそのようにそう言った日吉の顔はゆでダコのように真っ赤で、思わず「かっわいー!!」と叫んで抱きつくと、「ちょっ、先輩!」と叫びながら慌てる姿がまた可愛らしい。







「ほんっと可愛い日吉!可愛い可愛い可愛いっ!」
「っお、俺のどこが可愛………っちょ、先輩苦し……………っ」
「もー反則よ、その可愛さ!今すぐ食べちゃいたーい♪」
「た、たべ……っ!?」













……………………………こうして恋人を調子に乗せてしまった日吉は、この後彼女に美味しく頂かれてしまったとの事だそうです。


めでたしめでたし(笑)
















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名前変換ないのは拍手にしようと思ってたから(笑)
オチがねぇー!!(笑)
最近日吉グダグダだわーorz