「………『越前…リョーマ』?」
「……っス」

 呼び上げた新入部員の中で。

 ひときわクールに返って来た声。


 帽子の下の鋭い瞳。

 


 恋に落ちた。



















                         Fall in Love  























「まーたファンタ飲んでる」
「…あ」


 休憩中、見つけたFILAの白い帽子。
 声をかければ少しだけ驚いた、でも分かってたみたいな顔をする。


先輩、よく俺見つけますよね」
「そりゃー休憩の度に行方不明になってればね。ファンタの自販機、ここにしかないし」


 自販機備え付けのベンチにゆったり腰掛ける越前の隣に座れば、ちらりとだけ視線を動かす。
 帽子の下の綺麗な瞳。






 恋に落ちたときの、鋭さのまま。







「帽子取らないの?」
「授業中は取ってるっスよ」
「そーなの?部活中も外してよ」
「………なんで」


 訝しげな顔をする越前に、笑いながら「もったい無いから」言えば、意味不明という顔をされる。


「何がもったいないんすか」
「目。せっかく綺麗なんだから、帽子で隠しちゃもったいないじゃん」
「………女じゃあるまいし」


 呆れた様に答えて、くいっとファンタを越前が飲み干す。
 缶を捨てる音が、カコンと音を立てて響く。
 もうじき休憩時間も終わりだ。


「―そろそろ行こうか越前」
「っス」
「今度越前に会いに行くときは授業中にしよ。楽しみだな〜♪」
「………なんでそんなに目が見たいんスか」



 馬鹿にしたように言う越前に。



 思わずかがんで視線を合わせて。










「だって好きな人とは、目を合わせてしゃべりたいじゃん?」








 


「………何の冗談スか」
「こんな事冗談で言えるか」
先輩なら言いかねないっス」
「アンタさり気に失礼ね」




 人がせっかく告白してやってんのに、と言いかけた瞬間。





 開いたはずの唇が、急に何かで塞がれて。





「………確かに、キスするには邪魔っスね」



 今更ながら帽子を取って越前は言う。


 放心した様に固まってしまった私を置いて、コートに戻っていく越前に。
 何か言ってやろうと思えど体と一緒に思考も固まってしまった様で。
 


「―今度から、2人きりの時は帽子外しますんで。覚悟して下さいよ」


 に、と鋭い視線のまま言う越前に。



 どくん、と胸の鼓動が高鳴る。



「…覚悟すんのはアンタの方よ」



 どうにか唇を動かせど、既にコートに入ってしまった彼に、聞こえるはずもなく。





 恋に落ちて、落とされて。