いつまでも子供扱いしないでよ。


< すぐに追いついてみせるから >


「越前、何買う気?」
「―げ」

 自販機の前、今まさにボタンを押そうとした瞬間にかけられた声に。
 俺の指は、一瞬だけ動きを止める。

「―っつーか、あんたファンタ飲むのやめなよって言ったじゃん。背ぇ縮むぞ」

 乾にチクるぞ、と言いながら近寄ってくるその人。
 男子テニス部マネージャー、3年の先輩

―厄介な人に見つかった…。


 ため息をつきつつ、もう見つかったものだ、と開き直って目的のボタンを押せば、ガコン、という音と共に受け取り口にあらわれるグレープのファンタ。

「―って、アンタ注意してるそばからファンタ買うか!?」
「見つかったんだからもういいじゃん」
「よくねえよ。飲むんじゃねえっつったでしょ」
「―あ」

 一口だけ飲んだ俺のファンタを奪って、先輩が小銭を自販機に入れる。

 ―カコン。

 先ほどより軽い音がして、先輩が自販機から取り出したのは紙パックの牛乳。

「ほらよ。お子様はこれでも飲んでな」
「…………最悪」
「ああ?」

 むすっとした顔をすると、からから笑いながら先輩が俺のファンタに口をつける。

「―あ、間接キスしちゃった。まあいっか。越前だし」
「ナニそれ」
「お子様とチューしたってお姉さんは何も感じないのですよ」

 そう言って平然と。
 ためらいなく、2口、3口、とファンタを口に運ぶ優美子先輩に、わずかな苛立ちが芽生える。

 
 …この人はいつもこうだ。
 俺が子供扱いされるの嫌いだって分かってるくせに。
 こうやって、俺の事見下した態度をとる。



 …まるで、俺なんて恋愛対象じゃないって言ってるかのように。



「―ナニ?なんか言いたげ?」

 俺の不満げな視線に気づいたのか、小さい子供に視線を合わせるように、先輩が俺に顔を近づける。
 そんな態度さえも悔しく感じて、本能のまま、思いついたままに、両腕を先輩の首に回して引き寄せる。



 これまでにないくらい、至近距離にある先輩の顔に、思わずどきりと胸が高鳴る。




「―――いつまでも子供扱いしないでよね」




 そう言って、回した腕に力を込めて先輩を抱き寄せる。

「―えち…ッ!!!???」
 
 突然の事に驚きの声をあげる先輩の唇を、俺のそれで塞げば、腕の中でびくり、と先輩の体が強張る。



 ゆっくり唇を離してやれば、目の前に呆然とした先輩の顔。



「………『お子様とチューしても何も感じない』んでしょ?」

 先ほどのセリフを皮肉って言ってやれば、我に返ったのか、今更ながらに唇を押さえて唖然とする先輩


「ごちそーさまっしたー」

 ひらひら手を振って、階段を昇り、肩越しに振り返れば、未だ唇を押さえたまま真っ赤になって立ちすくむ先輩。





 ねえ先輩、すぐに大きくなるから。 

 だから、ちょっとは俺の事、意識してよね。

 俺はこんなに、先輩の事意識してるんだから。