これだから、あいつの誕生日って嫌なんだ。
< 今日だからこそ >
「―マネージャーがこんな所で何してやがる」
想像以上に低い声音に、そろそろと振り返った先には予想以上に不機嫌なテニス部部長の姿。
絶対に見つからないだろうとふんで隠れた場所だっただけに、驚いて振り返ったあたしを跡部は馬鹿にしたように見やる。
「いつもながら詰めが甘いぜ、。音楽準備室に隠れたくらいで、この俺様から逃げられるとでも思ったか?」
「―――な、なんでここが分かったの!?」
「アーン?この俺様に、お前の事でわからない事があると思うのか?」
「あるに決まってんだろォお!?」
お得意のインサイトやらを活用したのか知らないが、自慢げにそう言う跡部を歯噛みしながら睨みつける。
会話だけ聞いてれば、ある意味恋人同士と勘違いされるかもしれない内容だが、単なる部員とマネージャーにすぎない跡部とあたし。
ずざっ、と一気に窓際まで後ずさったあたしを、奴はますます不機嫌そうに睨みつける。
「……………まさか部活サボるつもりだったとか言わねぇよなぁ?この俺様でさえ、我慢して出るっていうのに、マネージャーのお前がサボるとか言わねえよなぁ?」
「アンタが我慢するのは当たり前でしょ!?今日のターゲットはアンタ1人!あたし無理!!今日は実家に帰らせて頂きます!!」
「ふざけんな、お前だけ楽させてたまるか。この俺様が一人で耐えてんだ、てめぇだけのうのうと帰らせてもらえると思うな」
「ヒドッ!アンタ性格悪いよ!!超ゆがんでるよ!!」
本日15歳を迎えたという跡部景吾殿は、たった1歳年をとったくらいで、そうそう捻くれた性格が変わるわけではないらしく。
今日はマネは休みですー!と動かないあたしを、奴はイライラと不機嫌そうな顔で睨む。
「いい加減、観念しろ。たった2・3時間の辛抱だろ」
「ムリムリ無理無理!だってアンタ、朝練のテニスコートに群がる女の子たち、ちゃんと見た!?フェンスが変形する勢いだったよ!?」
「馬鹿かお前。変形どころか、あの後フェンス裂けてたぞ」
フ ェ ン ス が 裂 け た !?
「むっ、無理無理ムリムリ!そんな、ジュラシック・パークに素手で乗り込むような自殺行為できませんて!死んじゃうって!」
「お前なら恐竜相手でも、素手で十分生存可能だ」
「なんですとー!!??」
Xmasに、バレンタイン、そして誕生日。
この3つのイベント時、テニス部レギュラー陣はさながら肉食恐竜に囲まれた、草食動物の恐怖を味わう事となる。
ただでさえやかましいフェンス越しの黄色い声援が、2月14日と12月25日、そして各レギュラーの誕生日にはいつもの2倍、いや200倍にもなってあたしの頭を悩ませる。(時にはフェンス越しに投げ込まれるプレゼントで、負傷者すらでる)
行きたくない、と喚くあたしを、問答無用で跡部がずりょずりょとテニスコートへと連行しようと思いっきり引っ張る。
ワックスの効いたつるつるした廊下を、文字通りずるりずるりと引きずられながらも「嫌だー!」と喚くあたしを、いい加減観念しろといった表情で跡部が見る。
「―ただでさえ疲れてんのに、これ以上手間かけさせんな。大人しく諦めるんだな、。」
「疲れてんなら放っときゃいいじゃん!わざわざあたし巻き添えにして、嫌がらせしなくてもいいじゃん!」
「………………おっ前、ホント分かってねぇな」
ぴた、と脚を止めた跡部に、首根っこ押さえられたままの姿でどうにか真上を仰ぎ見る。
見下ろしてくる跡部の呆れたような表情に、どんな罵倒の言葉が来るのか、と構えたあたしの耳に聞こえてきたのは想像以上にとんでもないもので。
「こんな日だからこそ、俺の側にいるべきなのはお前だろ?」
まるで至極当たり前のことを言うように、普通の調子で言われたそれを、あたしが一瞬で理解できるはずもなく。
は?と聞き返したあたしに、奴は止めていた歩みを再開して、再びあたしを引きずりながら言葉を続ける。
「この俺様にじきじきに探してもらえる奴なんか、世界中探してもお前以外いないぜ」
―光栄に思えよ?
ずりずりと廊下を引きずりながら、そう言った跡部の耳が。
心なしか赤かったのに、ようやくヤツの言った言葉の意味を理解して。
10月4日が、お付き合い記念日になるのは、この後の事。
◆ ◆ ◆
……え、ちょっと、ちゃんとギャグになってる?ギャグになってる?(しつこい)
ああ、お笑いの才能が欲しい!!(切実)
嫉妬する可愛いマネとか書けたらよかったんですけど、
最近糖度が高すぎて吐きそうでしたので(笑)