「…………さすがにアンタの部屋にまであるとは思わなかった………」
「ああん?何言ってんだてめえ」


  <  彼の部屋にはご用心  >
〜Act.4 跡部 景吾〜







 不愉快そうな表情で聞き返す、跡部の顔の前に、先ほど発見したものを突きつけてやれば、はん、と馬鹿にしたような声を返される。
 もう定番になったこの家捜しで、発見した一冊のエロ雑誌。
 跡部の真ん前に差し出せば、はん、と心底くだらなそうに鼻をならす。

「馬鹿かてめえ。この俺様がそんなくだらねえもん使うわけねえだろ。むしろ萎える
「萎える!?」
「そんな女でヌける男なんて、せいぜい忍足くらいだろ」

 あたしが開いたままのエロ雑誌を冷たく一瞥して、先ほどから開いていた、ギリシャ語の原著に視線を戻す跡部。

 全く興味のなさそうなその態度。

 反応の薄さに、ページを閉じてもとの場所に戻そうとすれば、「そんなくだんねえもん捨てておけ」と部屋の端のゴミ箱を視線で指される。

「……捨てておけって……これ跡部のじゃないんでしょ?」
「当たり前だ」
「いいの?捨てて。てか、誰の?」
「知らねえよ。この間合宿した時に持ってきた奴のだろ。帰ってきたらバックの中に入っていやがった」
「ふーん…」

 心底つまらなさそうに言う跡部に、「じゃあやりたくなったらどうしてんの?」と問いかければ、ぱたりと本を閉じて立ち上がる。
 
 眉根に薄く寄った皺。
 何かまずい事でも聞いたかな、と首を傾げれば、間近で顔を覗きこまれる。

「お前な……挑発してんのか?」
「は?」
「自覚なしかよ。タチわりいな」
「はあ?」

 意味不明な言葉を連ねる跡部の顔が、呆れと諦めの混ざったものになっていき。
 盛大なため息をつくと同時に、ひょい、と軽く抱き上げられる。

「うわ、え、いきなり何!?」
「あ?お前の質問に、今から答えてやろうとしてんじゃねえか」
「はあ!?」
「―――オラよ」
「―な、え、ぎゃっ!!!!」

 ぼす、と物を投げるかのように放り投げられた先は、柔らかい感触のマットレス。
 跡部の事だから質のよいものを使っているのだろう、思いっきり放り投げられたにしては緩やかなその衝撃に、感心する間もなくトン、と肩を軽く押され勢いよく仰向けに倒れる。
 慌てて起き上がろうと肘をついて上半身を起こせば、ぎしり、とスプリングを軋ませながら覆いかぶさってくる跡部。

 にやり、とその形のいい唇の端をあげて見下ろす跡部に、さすがに危険信号が点灯しだす。

「あ、跡部、まさか…っ!」
「あん?」
「ちょ、ま、待って待って待ってー!!!」
「待つわけねえだろ」
「ぎゃあああああ!!嘘でしょー!!??」

 冗談は顔と性格だけにしとけ、と必死で暴れるが、氷帝学園テニス部部長に、単なるマネージャーのあたしが敵うわけがなく。






「やりたくなったら、どうしてるのか、っつったよな?こうしてんだよ」







 言葉通り、手馴れるどころか熟練者の手つきで行われたそれに。

 
 飛んで火に入る夏の虫、という、ことわざがあたしの頭の中に渦巻いていました。



 


〜 後日談 〜

:「よーし忍足、歯ぁくいしばれー?」
忍足:「は!?登校早々なんやねん!?ちょ、タンマタンマ!!」
:「うっさいわ、黙って殴らせろー!!アンタが合宿に変なもん持ち込んだせいで…!!チクショー!!」
忍足:「痛っ!ちょ、痛いてホンマ!なんやねん!!?オイ跡部、お前の彼女凶暴すぎやで!?」
跡部:「あーん?そうでもないぜ、ベッドの中ではな」
:「な、なななんあああああああああ跡部ぇええええええ!!!!」