「…………何してんの、跡部?」
「でけえ声で名前呼ぶんじゃねえ。見てわかんねえのか、バカかてめえ。っつーかアホだろ」
 …………どうやら彼は、今すぐあたしに大声をあげてほしいようです。




<  その手を伸ばす  >







「…ボタンくらいいーじゃん、ケチケチしないであげなよね」

 屋上なんかに隠れてるなんて情けない、と続ければ、うるせえ、と鋭い瞳と共に告げられる。

「うざってえんだよ。たかだかボタンごときで、アリの様にたかりやがって。物がなければ忘れてしまうくらいの想いなら、いっそ捨てちまえ」
「アンタ今女の子をアリ扱いしやがりました?」
「じゃなきゃハエだな。こっちは答辞で疲れてんだ、いちいち相手してられっか」
「あんたねえ…好きな人のボタンが欲しいっていう、純粋な乙女心、ちょっとは理解してあげなよ」
「めんどくせぇ」

 フン、といつものように嘲笑して、屋上の手すりに跡部がよっかかる。
 何気ないその動作すら、こいつはいちいち優雅に見える。

 跡部のボタンを欲しがる子達は、コイツのどこに惹かれたのだろうか。

「…アンタもなんか大変だね」
「何がだ」
「性格はおいといて、容姿、家柄、頭脳。この3つを兼ね備えてるんだもん。そりゃー女の子も寄って来るよねえ…」

 はあ、とため息をつきながら言えば、くだらない、と一笑にふされる。




「どれだけ寄ってこようとも、俺が手を伸ばす人間は決まってる。手を取る相手を間違えなければいいだけの話だ」




 自信ありげに言い切る跡部を、柔らかい春の光が眩しく照らす。
 これだけの男に選ばれる女の子は、一体どんなものだろう。


「…跡部に見初められる女の子は大変だね」
「あぁ?」
「だって、アンタの隣に立つなんて、ホント苦労しそう。色んな女の子に恨み買いそうだし」

 けらけら笑いながら言えば、不満そうに、けれどどこか楽しそうに、返された言葉。




「じゃあお前は苦労する運命だな。せいぜい頑張れよ?」




 ……………はい?



 跡部さん、アナタ今何を言いやがりました、と聞き返せば、無造作に放り投げられる、丸いもの。
 春の柔らかい光を浴びて、きらきらしながらゆっくりとあたしの手の中に収まるソレは。

「………ボタン?」
「『好きな人のボタンを欲しがる、純粋な乙女心』ってヤツなんだろ?」

 クッ、と、意地悪そうに笑う跡部に、言い返す言葉なんて思い浮かぶはずもなく。

「誰がアンタの事好きなんて言ったのよ」

 高鳴る鼓動を必死で隠しながら言った強がりは、やはり彼の意地悪な言葉にかき消されて。

「そんな赤い顔で言っても説得力ねえぜ?

 伸びて来た腕の中、強く抱きすくめられ、さらりと髪に触れられる。

「………アリ扱いしたら殺してやるから」
「あぁ?お前ホントに馬鹿だな」

 馬鹿扱いもすんな、と睨もうとすれば、思いのほか優しくふってくる言葉。





「俺が手を伸ばす人間は決まってるって言っただろ?」






〜へぼへぼ管理人より〜
 何このエセ跡部!
 過去拍手、ご要望がありましたので…つい…(何がつい!?)
 スランプに乗じて苦し紛れにUPしてしまいました!
 ごめんなさい、ちゃんと本編も進めます!(汗)